蛇足

前回のエントリーはあまりに長くなりすぎてw、解説の部分だけで終わってしまいました。
今回は、本当は解説に続けてもう少し書きたかったこと、いってみれば「蛇足」の部分を書いてみたいと思います。


その前に、誤解のないように書いておきますが、前回のエントリーは、池上彰氏が番組で言っていた「土地の異常高騰がバブルの原因」というのが「間違い」だと主張しているのではないですからね。
言いたかったのは、「株式持ち合い」っていう「大きな主原因の一つ」を、故意にか無意識にかスルーしているよねっていう、まあそういうことです。



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前回のエントリーで、私は「バブル」のことを


「企業と証券会社がグルになって、無から有を生み出す『錬金術』を駆使した、崩壊するのが必然だった『幻の経済成長』」


と書きました。


株式の持ち合いで、実体がない所にあたかも「富」があるように見せかける、まさに「無から有を生み出す『錬金術』」。
この錬金術の危険さを、当の株式発行企業や、特に証券会社が自覚していなかったハズがありません。
しかし企業は、一度手を染めた「錬金術」から足を洗うことができませんでした。


「足を洗う」ということは「持ち合いを解消する」ということですが、その結果として当然株価は下がります。
経営者たちは、それが自らの経営責任として追及される事を恐れたのでしょう。
結局、「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ」とばかりに、この問題を先送りにしてしまいました(としか私には思えません)。
証券会社にいたっては、いつかは破綻することがわかっていながら、手数料欲しさに後先構わず「エクイティ・ファイナンス」を発行企業に勧めてきました(まさか「わかってないほどバカだった」、わけないですよね)。
そうしておいて顧客には「ファイナンス銘柄を狙え」と煽るマッチポンプ


まさにイケイケドンドン(死語)の時代でした。


「将来人口が減れば確実に破綻する」年金を、そうと知っていながら放置した「先送り日本人メンタリティ」は、ここにも生きているのです。


(これは原発に関しても同じです。放射性廃棄物の処理費用を先送りにして、今だけ切り取って「安価」だと詐欺るのが「先送り日本人メンタリティ」。)


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それから私は


「『あのバブルの本当の原因』について語られたことを、私はほとんど見たことがありません」


とも書きました。


ここまで書いて、じゃあネットはどうなんだろうと「バブルの原因」について検索をかけてみたのですが、・・・出てきたのは「過度の金融引き締めが悪い」という、いわゆる「三重野総裁犯人説」ort


「ハードランディング」には確かに賛否はあるかもしれませんが、そもそも経済が、それが実体を伴ったもので、いわゆる「バブル」でなかったら、それは金融引き締めくらいで崩壊する性質のものではありません。
数年も経たずに再度緩和しても景気が反発しなかったのはなぜか?
それは、あれが結局は「バブル」だったからなのです。
(これは裏を返せば金融緩和だけで実体が伴わなければ、景気が上向くわけがない、ということです。この考え方は、玉石混交の「アベノミクス」評論の判断基準としても使えると私は思います。)


「日銀三重野総裁」は「バブル崩壊のきっかけ」に過ぎず、「バブル崩壊の原因」は当然「バブルそのもの」にあるのです。


この当然すぎる前提を無視して「三重野犯人説」を語り、「原因」と「きっかけ」を無意識、あるいは意図的に錯誤している/させる言辞は、「バブルの真の原因」から目をそらす働きをすることで、結局は財界の手先として「企業・証券会社を免罪する」役割を果たしていることになるのです。
今回の記事を書くに当たり、ネット検索をかけていると、左右どちら系のブログにもちらほら「三重野犯人説」を取り上げて「失われた20年の元凶」とか書いちゃってる人がいますけど、こういっちゃなんですが、たかが日銀総裁にそんな力はありませんからw。
こういう人たちにとっては、「経済って簡単なもの」なんだろうなあ。


(ちなみに、もしあの時点でバブルを崩壊させていなければ、更に大きなバブルになって、結果的に更なるハードランディングだった可能性もありました。そういう意味で「ブラックマンデーの時に無理にV字回復させないで、むしろ少し崩しておいた方がよかったんじゃないか」なんて言ってた人がいたことを思い出しましたが、それが誰だったかまでは思い出せませんでしたw。)


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「株式持ち合いがバブルの主原因の一つだった」ということは、未だに世の中では(故意にか無意識にか)スルーされています。
「バブル」といえばもっぱら「地価の異常な高騰」に始まる話が多く、「株式価格高騰」はその結果として語られて、たまに「なぜ高騰したか」と話し始める人がいたりすると、けっこうな確率でチューリップから心理学の話になってしまい、肝心の経済の話はされずじまい。


どうして?


「土地高騰」については、「プレイヤーがアホだった」っていう話、かもしれません。
しかし「持ち合いバブル」については、完全に「ディーラーがイカサマ師だった」。
だから、かもしれませんね、なんてついつい勘ぐっちゃいますよね、この話が世にあまり広がらないのは。
でも、今回エントリーを書く際に、銀行・証券会社系の研究所のpdfなんかをチラチラ見たんですが、それを見る限り、彼ら自身は、思いのほか「持ち合いで株価を釣り上げた」っていう自覚がありますね。
知らぬは一般庶民ばかりなり、ってことなんでしょう。


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また、「バブル」と「株式持ち合い」の説明として、


「バブルが崩壊したため、資金不足などから持ち合いを維持するのが困難になり、その結果株式持ち合いが一部崩れた。」


ということを言う人も多いようですが、これは順番を取り違えているだけでなく、崩れた「その先」が書かれていません。


正しくは


「株式の過剰発行により、今までのように浮動株を持ち合いに転換することが困難になり、需給操作による株式の価格コントロールができなくなって、それによってバブルが崩壊した(ことによって更に資金が不足して更に持ち合いが崩れて更に株価が下落して・・・以下ループ)」


という順番、そして「その先」の話なのです。


「ループ」「スパイラル」は、「どちらが先か」とか「原因と結果」とか、誤魔化す/誤魔化される余地が大きいので、充分注意しなくちゃいけません。


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私たちは、


バブル経済には実態がないと語る人もいますが、元より景気とはそういうもののはずです。
バブル「崩壊」防止が前提じゃないのか?


という甘言・妄言に騙されてはいけません。
(なぜかこの手の詭弁を弄する人って、左右関係なく一定程度存在していますよね。繰り返しになりますが、こういう人たちにとっては、経済って簡単なものなんだろうなあ。)


バブル経済とは実体がないものであり、景気とはバブルであってはならない」
「バブル「製造」防止が絶対の前提」


なのです。


そして「失われた○○年」という言葉を使う時、決して「バブル時代の資産が失われた」などと考えてはいけません。


あれは「株式持ち合いによってつくられた幻の資産」。
「失われた」のではなく「もともとなかったもの」
なのですから。


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経済とは、通貨や株式を操作することで一時的に上手くやったつもりでも、最終的に「実体」が伴わなければ、必ずあとでしっぺ返しが来ます。
最近の話題で言えば「輪転機をぐるぐる回す」。
それについては、また後日(今回は池上氏に対抗して長く書いて疲れたので、今度はもう少し短い)エントリーを書こうかと思ってはいますが、今日のところはこのへんで。


とは言っても「輪転機問題」については、私がわざわざ書かなくても、「バブルの原因」とは違ってネット上にそこそこ「正しいこと」が比較的たくさん(しかもわかりやすく)書いてありますし、今回の私の「解説」を読んで理解していただいた方であれば、もはやそれらを読むまでもなく、「輪転機理論の矛盾」に自分自身で辿り着けるはずです。


さて、蛇足もこれで終わりです。
前回の記事、もし「いいね!」と思っていただけましたら、このブログのことはともかく「株式持ち合いとバブルの話」、是非ともどっかで広めてくださいませ。


それではまた。