「タクシー」でアベノミクスを理解する

唐突ですが「この不況下の日本で、タクシー業界を再建するため、国・自治体の政策はいかにあるべきか」について考えてみましょう。

その際、「競争がより良いサービスを生み、それによって消費者の支持を取り戻せば市場は拡大する」とか「成長のためには、まずは全体のパイを増やさなければならない」などと考えて、「タクシー会社の法人税を軽減」するなどして「タクシーの台数を増やす」、しかも「その穴埋め資金を消費税でまかなう」政策を実施することにしたら・・・

消費増税により市民の可処分所得は低下し、その分タクシー離れが一層進むでしょう。
また、タクシーの台数が増えた分、当然ですが1台あたりの売上は減り、従業員一人当たりの収入は減ることになります。
結局、このような積極策=供給重視の政策を取った場合、タクシー不況はこれまでと比べてより一層深刻化するだけなのです。

(実際の日本経済では、ここで考えたケースとは異なり、タクシーの供給重視政策と家計削減政策はまったくの別政策として実施されましたが、両方同時期に行われたために、結果としての経済効果は同じことです。また、ここで言う「供給重視政策」には、「法人税の引き下げや量的緩和によって企業側(これはタクシー会社だけではなく日本企業全体)に資金を回す」といった政策ももちろん含まれます。

(↑赤字部分加筆:10/08)

タクシー業界は最近、この「供給重視」の政策からの方針転換を決めました(http://matome.naver.jp/odai/2137678850806490001)。
小泉行革=規制緩和路線の失敗を認めたのです。
しかし全体を見渡せば、このようなバカバカしい経済政策を、いまだに「国を挙げて」実施し続けている、というのが日本経済の現状なのです。

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現在の不況は、賃金削減等で消費=需要が落ち込んだことによるデフレ不況です。
であれば、それに対する正しい処方箋は

「消費=家計側に資金を回し、需要と供給のバランスを修正する」

となります。

(もしこれが、労働者または株主の力が大きくて賃金または配当が大きく生産=供給が落ち込むようであれば、家計側から企業側に資金を回す政策が必要となります。たとえば「地主の年貢取り立てが厳しい農家」がそれに当たります。)

しかしアベノミクスでは(というかバブル崩壊以降ずっと・・・というよりも「高度成長期以来ずっと」と言った方がいいかもしれませんね)、日本政府は「資金を家計側から企業側に回す」という政策を取り続けています。

(今後実施される予定の第三の矢とやらがこれ→「法人税、来年度約2%下げへ」http://www.yomiuri.co.jp/economy/20140730-OYT1T50187.html

するとどうなるか。
消費が落ち込んでいて生産が過剰ということは、商品が売れずに「不良債権」化している、ということ。
そんな中、さらに家計側から企業側へ資金を移し、「その資金で業績を回復させて」賃金を上げようとしても、実際には「生産過剰の度合いが増す」ために「『不良債権』がさらに増えるだけ」、つまりは「症状をさらに悪化させてしまうだけ」なのです。

このことを無視した「金融緩和は景気向上の万能薬」という考え方は間違いです。
肝心なのは「緩和マネーをどこに注ぎ込むか」、つまり現在の日本経済であれば「家計側」に注ぎ込むのであれば正しい政策、「企業側」であれば間違った政策となるのです。

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ところで、「緩和マネー」は国債発行によってまかなわれているわけですが、これは誰が「返す」んでしょうか?
「国の借金は国民の資産」という空疎な呪文を唱える向きは多いのですが、その一方、「緩和マネー」自体は企業に注ぎ込まれるのに対して、「国の借金」は消費税(それも20%以上の)で返すことが前提されている・・・らしいですよ、市場では!

これは見事な家計→企業への富の移転ですね!!

(追記)

ちなみに、なぜ高度成長期に「資金を家計側から企業側に回す」政策が成功したかというと、輸出によって外貨を自国の富として取り入れていたからです。
当時、外需を加えた日本経済は大幅な生産過小であり、そのため「今とは違い」労働力不足から賃金上昇がもたらされ、それにより内需も拡大するという「成長の循環」が実現した期間でした。
もちろん、このようなこと(「先進国からの富の移転」という成長モデル)が永遠に続けられるわけもなく、先進国になった今、もし今後も「成長を志向」するならば、むしろ「まずは途上国への富の移転が必要」のはずです。

(この部分、実は本文中の「企業/家計」と相似形であって、これがつまりは「循環による成長」という「資本主義における基本(または制約)」です(もし可能なだけ生産して分配するのであれば、資本主義ではなく共産主義のほうがはるかに効率がよい)。ただしもちろん「これ以上成長させる必要があるのか」といったことや「そもそも成長が可能なのか」といった制約は別問題として存在します。)

しかし、昨今の外貨安競争(思えば異次元の金融緩和の効果って結局コレだけ、しかも想像以上に限定的でしたね)に飽き足らず、今後は「多様な働き方」という名の賃下げをさらに加速させることで、「高度経済よ再び」「バブルよ再び」を目指すようです。

以前、「永遠の途上国」というエントリーを書いたことがありました(興味のある方はどうぞご覧ください)。
アベノミクスで、もうすぐ日本は「永遠の途上国」です。