ライセンス

先週から今週にかけて、サッカー日本代表はW杯予選3連戦。
こういう時期、J1リーグ戦は一時中断期間となって、ナビスコカップというカップ戦を戦うことになります。
Jリーグをよく知らない方のために。リーグ戦とは年間順位を決めるための争い、カップ戦とはまた別建ての争いです。年間優勝はリーグ戦で争われ、また年間順位下位3チームはJ2へ降格してしまうため、通常カップ戦よりリーグ戦の方が重要視されます。だから、チームの主力を日本代表に持って行かれる時期にカップ戦を行うというわけ。そのため、カップ戦は若手選手が試合に出るチャンスでもあるのです。)


リーグ戦は約3分の1を消化したわけですが、前半戦で一番予想外だったのは、なんといってもガンバ大阪でしょう。


昨年まで西野朗監督の元、10年間で3位以内が8回と常に好成績でした。
昨年も3位だったにもかかわらず、チームは「10年で優勝がたった1回しかない」という理由で監督を代えました。
新監督として元日本代表の呂比須ワグナー氏を迎えようとしたものの、Jリーグ側が「呂比須に監督資格がない」としてこれを認めず、ガンバ側は呂比須氏をヘッドコーチ、呂比須氏と旧知の仲だったセホーン氏を監督とする2頭体制としました。
ところがこれが全くうまくいかず、チームは開幕から公式戦5連敗(リーグ戦3連敗、ACL2連敗)。
その間なんと、「相手チームから一度もリードを奪うことができませんでした」。


funaは、去年までFC東京に在籍していた今野選手がガンバ大阪に移籍したのもあって、開幕からしばらくの間、ガンバ戦は全て見ていたのですが、正直開幕戦のあまりの酷さに驚き、2戦目終了後には「おそらくこの監督では今後1勝もできないだろう」と相棒や職場の同僚に言ったくらいです。
(5連敗後の解任でこの「予言」は当たってしまいました。同僚からは予言スゲーといわれましたが、どうやらスカパーの再放送を見たようで、後日「言ってた意味がわかった。あの予言スゲー発言は取り消し。」と言われました。)
去年は浦和レッズが散々酷い酷いと言われていましたが、そんなのと比較しても「桁が違う」内容の悪さ。
こんなに短期間でここまでチームを壊せるものなのか、と悲しい気持ちになりました。
去年と今年、何人かの選手が移籍してはいますが、それでも選手自体の実力はJリーグの中でも上位3分の1には入るでしょう。
つくづくサッカーというものは、監督の力が大きいものだと思います。


・・・・・・・・・・


呂比須氏が監督をできなかった理由は、Jリーグ側が「監督資格がない」としたからです。
Jリーグで監督をする際には、JFA公認S級コーチというライセンス(S級ライセンスとも呼ばれる)を持っていなければなりません。
これを取得するためには、試験以外に1年間の研修を受ける必要がありますが、例えば外国人の監督にはそんなものを受ける時間はありません。
それに、既に海外で実績を上げた監督であれば、そもそもそんなものは必要ない、とも言えます。
そのため、「海外での監督経験がS級ライセンス取得相当とJリーグ側が判断すれば」S級を持ってなくてもJリーグで監督ができる、ということになっています。


ガンバ大阪は、事前にJリーグ側に呂比須氏の監督資格について問い合わせをして、リーグ側から内々に了承されていた」という報道もあり、今回の件、100%ガンバ側が悪かったという事でもないようです。
しかし、例えば鳥栖が監督を岸野氏から尹氏に交代しようとしたときに、やはりライセンスの関係でリーグ側から許可が下りなかった(尹氏のコーチ経験がS級相当とは認められなかった)のですが、この時はGMだった松本(育夫)氏が監督兼任、尹氏がヘッドコーチという体制(実際の指揮は尹氏)で行けるという「保険」が予めかけられておりました。
(尹氏は1年でライセンスを取得、翌年には監督に「昇格」しています。そしてチーム自体はその翌年にJ1に昇格しました。)
それと比較したとき、やはりガンバ大阪は危機管理が甘かった、と言わざるを得ません。
(金森&山本とかJSPの話とかは、さすがによそさまのことなんで遠慮しときますw)


・・・・・・・・・・


ところで、S級ライセンスなどというものは、いったい何のためにあるものなのでしょう。


普通の企業であれば、誰を雇ってどのポストに据えるのかはそれぞれの企業の「自己責任」、成績が悪ければ人事異動をさせればよく、第三者にとやかく言われる筋合いのものではない、というのが普通の考え方だと思います。
しかし、Jリーグというのは、その一般論とはまた違う「リーグ全体を商品としている」と事情があります。
Jリーグには「お客様から木戸銭を取って試合という商品を提供する以上、一定の品質を保証しなければならない」という考え方があります。
例えば、スタジアムの規模についても一定以上の制限(J1:15000人以上、J2:10000人以上)があり、それを満たさないチームは、たとえ成績が良くても昇格することができません。
同じように、試合の内容についても一定以上の水準を求めます。
それ故に、監督資格としてS級ライセンスというものを設定しているのです。


・・・・・・・・・・


この視点から、呂比須氏はおろか、セホーン氏についても、Jリーグは監督として認めるべきではなかった、という意見があります。
セホーン氏の実績とされたサンパウロFCでの優勝監督という経歴も、よく調べてみれば「年間数十試合のうち数試合代行監督をしただけ」というもの。
それ以外はほとんど2部以下のリーグで、それも半年でチームが変わっています。
これは「成績不振→解任」が繰り返され、実力がないため一部リーグからお声が掛からなかった結果と容易に想像できます。
そして実際にその「能力」は、とてもJリーグの監督を務められるものではありませんでした。
練習はほとんど試合形式、基礎練習やフォーメーション練習はなく、いざ試合では具体的な指示もださずに、ただ「がんばれ」と励ますのみ!
(本来監督がどんなものかは、「ジャイキリ」でも立ち読みしてください)
ハッキリ言って、あんなんだったらfunaでもできそう、というか、全てのガンバサポーターが「あんなんやったら俺が監督やった方がましや!」って思っていたに違いありません。


で、「認めるべきではなかった」かどうか、についてですが、funaとしてはどちらもアリで、つまりは「何を大切にするか」によるんだと思うんです。


ガンバ大阪は、呂比須氏の監督就任にリーグからNGが出た後、それでも呂比須氏をヘッドコーチ=実質監督とするべく、「お飾り」の監督としてセホーン氏を呼んでおり、Jリーグ側は当然その考えを理解していたと思われます。
その上で、あの時点(昨年12月)で「実績」を問題にしてセホーン氏に対してもNGを出してしまうと、ガンバの新体制発足がどんどん遅れることになり、翌年のための準備期間が短くなることで、かえってチームの質が下がってしまうことが考えられます。
目的が「観客に対する品質保証」であるならば、「実績をS級相当と認める」として、ガンバの新監督選考のこれ以上の混乱・迷走を避けることで準備不足による品質低下を防ぐ、という判断は十分にありうるでしょう。


今回の件でJリーグは、監督の資格・能力を厳格に審査することよりも、ガンバの監督探しをこれ以上長引かせないことを優先させた、と考えられます。


(逆に↑の鳥栖の件は、松本監督という「保険」があることをJリーグ側も予め承知していたため、安心して「尹氏の監督就任にストップをかける=ルールを厳格に適応したという実績をつくる」ことができた、とも言えます。)


・・・・・・・・・・


そもそもS級ライセンスは「品質保証」ではありますが、それは「失敗しない」ことを保証するものではありません。
毎年、数多くの監督がさまざまな失敗をしますが、それでもその責任はチームが負えばいいのです。
そして、いざとなれば監督を交代させればよく、その権利はチームが保有しているのです。


そういう意味において、監督資格=S級ライセンス認定については、一定程度緩やかに運用されるものであるべきものです。


「降格」は「経営破綻」等とは違い、いくらでも取り返しがつくものですから。


・・・・・・・・・・


今までお話しした「S級ライセンス」、funaを含めほとんどの人には一生縁がない話だと思われます。
逆に、多くの人に縁がある「ライセンス」と言えば、なんといっても「自動車運転免許」でしょうね。


運転免許も一種の「品質保証」です。
しかし、その性質はJリーグでの監督資格=S級ライセンスとは若干異なります。
S級ライセンスJリーグでの内輪の決め事ですが、運転免許は社会全体のこと、そして時に命に係わることもある。
しかし同じ部分もあります。
それは、「『品質保証』ではあるが『失敗しない』ことを保障するものではない」というところです。


・・・・・・・・・・


最近、てんかん患者による交通事故が発生し、それを機に「以前のように、てんかん患者に対して免許取得を認めないようにするべきだ」とする意見が多く聞かれるようになりました。
確かにそのようにすれば「運転免許を持つてんかん患者が加害者となる自動車交通事故」は限りなくゼロに近くなる、かもしれません。
しかし、「全てのてんかん患者に事故を起こす発作が起こる可能性が有意に高く、薬などでそれを抑えることが不可能」という訳ではない以上、「てんかん患者」という部分で免許取得がOKかどうかを判断することは、明らかに「科学的合理性」に欠けます。
それでもしかし、「認めない派」の人々は、「てんかん患者の個人の権利より公共の利益を優先させるべき」と言うでしょう。
免許を取得できない不利益は別の方法で保障すればいいのだ、と。


ところで、この方向で議論を進めれば、「てんかん」という病気だけではなく、あらゆるものを「免許取得という個人の利益より公共の利益を優先させるべき」という言説に乗せることが可能です。
例えば、昨今飲酒運転での事故もやはり大きな話題になっておりますが、上の考え方を適応すれば、「日常生活で飲酒する人には免許を交付しない」という考え方もアリ、かもしれません。
そうすれば「運転免許を持つ飲酒運転者が加害者となる自動車交通事故」は限りなくゼロに近くなる、かもしれません。
そして、運転したければ酒を飲まなければいいだけ、なのですから。


しかし、もしそれを実施すると、とたんに酒類の販売が激減し不景気になる、それは良くない、・・・きっとそう考える人が殆どでしょう。
結局この「飲酒=免許不可」が日本で実施される可能性の方が、限りなくゼロに違いありません。
それに「酒飲み」にとっては、↑の政策はとても耐えられそうにありませんw。
(そう考えると、意外にイスラム圏あたりであれば、↑の政策が当然として受け止められる可能性もあるかもしれませんね。)


 


ではなぜ、「てんかん患者の免許取得を認めない」は実施されるべき、と考える人が多いのでしょうか?


 


・・・・・・・・・・


結局、S級ライセンスについても、運転免許についても、同じことが言えます。


「ライセンスとは、『どうあるべきか』『何を大切にしたいか』が表現されたものである。」


・・・・・・・・・・


さて、政府は大飯原発の再稼働を決めました。


政府は、大飯原発に運転許可=ライセンスを与えたことになります。
今回の決定には「品質保証」もへったくれもなく、もちろん事故の起こる可能性もある、しかもその可能性自体が正しく測定できていないわけですが、それも含めて、このライセンスには発行者の「どうあるべきかが表現されている」のには違いありません。
野田首相に言わせれば、「事故の起こる可能性」よりも「日本が立ち行かなくなる可能性」の方を回避するべき、ということなのでしょう。
私に言わせれば、この程度の電力不足が原因で「日本が立ち行かなくなる」可能性など皆無に等しい。
もちろん野田首相だって、心の底ではそんなこと思っちゃいない。
再稼働させないことで、日本の「なにかが」立ち行かなくなる、というだけです。


・・・・・・・・・・


単純計算で電力が足りないとき、方法はいくつか考えられます。


供給を増やすこと。


需要を減らすこと。


原発を再開させること。


それ以外の発電量を増やすこと。


受給調整契約による需要制限をすること。


電力使用制限令による需要制限をすること。


節電すること。


停電させること。


 


あなたは、「どうあるべき」だと思いますか?


 


そして、「何を大切にしたい」と思っていますか?