厳密な値は分からなくても、確実であることは分かるのに

funaboristaは数学が好きです。


人には好き嫌いがあるので、数学が嫌いという人がいても別にいい、とは思います。
が、よく知りもしないのに間違ったことを書いて、まあ間違ってるだけなら、人間「間違い」も「勘違い」もありますよ、でもその「間違い」に基づいて「数学/数学者ってのは〜」みたいに不当にdisってるってのは、さすがにムッとしますねw。
それがたとえ「その人らしい」発言だとしても。


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「確実なことは分からなくても、だいたいのことは分かるのに」 非国民通信(2012-05-12)


http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/30f6d04702d9c02e96e7fae13f0794dd


(引用開始)


ある中学校の三年生の生徒100 人の身長を測り、その平均を計算すると163.5cmになりました。この結果から確実に正しいと言えることには○を、そうでないものには×を、左側の空欄に記入してください。


(2)100 人の生徒全員の身長をたすと、163.5 cm × 100 = 16350 cm になる。


 上記は日本数学会による「大学生数学基本調査」で設けられた問の一つで正解は「○」らしいのですが、それが「確実」なのかちょっと疑問を感じないでもありません。たとえば163.0cmの人が50人、164.0cmの人が49人、165.5cmの人が1人の場合を考えてみますと、合計は16350.5cmになります。この場合の算術平均は163.505です。100人の平均がジャスト163.5cmであれば話は単純なのですけれど、小数点以下第2位から先を四捨五入した結果であれば、もしかしたら厳密な平均は163.527とか、163.468かも知れないわけです。そうである場合、100人の合計はジャスト16350cmにはなりません。他にも有効数字4桁などと条件が明示されていれば、やはり100人全員の身長の和は16350cmに収まりますが、そのような条件は問題文に明記されていません。有効数字4桁と「推測」するのは概ね妥当と考えられますが、それが設問に示されたものではない以上、「確実」と言い切ることにはためらいがあります。100人の生徒全員の身長を足した場合が16350cmになるのかどうか、確実なことは分からないと言えなくもないのではないかと。


 16350cmになるかどうかはわからない、設問の条件からは絶対に確実と言えるものは導けません(とりあえず上記は前フリなので、そういう前提で進めてください)。


(引用終了)


 
「163.5cm」をどう解釈するか。


「有効数字4桁などと条件が明示されていれば」と非国民通信管理人氏(以下長いのでH氏とします。非国民通信管理人さんすみません。)は書いていますが、これは「『推測』するのは概ね妥当」どころか、問題文に“ほとんど明示されているも同然のこと”なのです。
なぜか。
もし有効数字3桁であれば、「163.5cm」の「.5」ような小数点以下の数字は書いてはならず、「163cm」または「164cm」と書かなければなりません。
逆に有効数字5桁であれば、(実際の測定値がわかりませんので例えばですが)「163.50cm」のように書かなければならないのです。
つまり「163.5cm」と書かれた問題文は、有効数字4桁(または厳密に163.5cm)という解釈しかできないのです。


ところで、等式の左辺を有効数字4桁としたならば、当然右辺も有効数字4桁としなければなりません。
右辺だけ有効数字5桁とする(と解釈する)、というのは許されない行為なのです。
ということは、(左辺が厳密に163.5cmという解釈をとらないならば)右辺の「16350 cm」の有効数字も4桁、つまり「0」という数字は“丸められた結果としての0”ということになります。


ここでもし、


>もしかしたら厳密な平均は163.527とか、163.468かも知れないわけです。そうである場合、100人の合計はジャスト16350cmにはなりません。


などと言って、「163.5 cm × 100 =」という問題に対して「163.527cm」と回答し、「これでも間違いではないのだから「×」はつけられないハズだ」と主張したらどうでしょう?
これは、有効数字4桁(または厳密な値)で出題されている問題に対して、有効数字6桁で回答していることになります。
ですから「163.527cm」という回答に対しては、当然「×」という採点になります(ましてや大学生ならなおさらです)。
結局、「163.5 cm × 100 =」という質問に対しては「16350 cm」という回答しかありえないのです(有効数字4桁であれ厳密値であれ)。


ここで結論。


「163.5 cm」という数値は「厳密ではない」かもしれない。
しかし、それでも(2)は「確実に正しい」と言える。


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とまあこれだけであれば、「厳密」と「確実」の概念を「厳密に」区別できなかったっていうだけで、それほど目くじら立てることでもない、フツーの人にはよくありがちなこと、と思うだけでした。
それより、この日本数学会の大学生向けテスト(この問題は、かけ算の理解というより有効数字の理解と解釈すべきでしょう)、問題のレベルとしては結構イイ線いってるな、と。
(funaは初めて読んだとき、「とりあえず上記は前フリなので、そういう前提で進めてください」って書いてあるのは、「この前フリは厳密には間違いなんだけど」という意味だと思っていました)。


でも、読んでる人の中には私以外にも「おかしい」と思う人がいるはず、もしかしたら「厳密」と「確実」についてツッコミを入れてる人がいるかもしれない、と思ってコメント欄を読んでみたら・・・ツッコミはありませんでしたが、かわりに


>工学をやってる学生は特に戸惑いそうな問題ですね
>数学者が作ったのかな?


という釣り?コメントに対して、


>数学者だと、気にならないものなんでしょうかね。
>むしろ文系の私なんかからすれば、人間の身長の合計が、16350みたいな綺麗な数値になるのはおかしいとか、余計な事まで考えてしまうところです。


などというH氏による数学者disのコメントが!


これはいけません。
H氏って、これ以外の場面でも結構この傾向があるのですが、なんで自分が間違っているくせに「自分が間違っているかもしれない」などとは露とも思わず、「専門家の方が間違っているハズ」などと思ってしまうんでしょうね。
(だいたいこの問題、工学系の学生ならまず「戸惑いません」(有効数字の知識があるから)。それに日本数学会はfunaなんか畏れ多くて近づけないような先生方が何人もでチェックを入れているはずです。それを「数学者だと〜」とか、「むしろ文系の私からすれば〜」とかwww。)


シロウトはプロに対して、常に謙虚でありたいものです。


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ところでH氏、このエントリーにおいては、「有効数字」について


>厳密に16350cmとなるかは不確かであっても、16350cmを中心に誤算の範囲、16345cm以上16355cm未満に収まることまでは導けるわけです。


と説明していることからも、ともかくも「ある幅に収まる」ということは理解できているわけですが、違うエントリーだとなぜかこのことが理解できなくなってしまうor故意に無視する方のようです。


 
「家庭だけで済むはずがない」 非国民通信(2012-05-08)


http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/8da4a76b892e78908eb012b9c67e93fc


(引用開始)(funa注:コメント欄です)


久しぶりにコメントします (中川屋)(2012-05-16)


いつもはガラケーからROM専なのですが、繁忙期とやらで仕事が終電後まで終わらないため、しばらくの間は始発までネットカフェ暮らしです。
せっかくのネットカフェで久々のパソコンなので1つ質問させてください。
電力不足対策で、
「停電回避のためにはピーク時に需給調整契約を結んでいる企業の送電を順番に止めるべき。そういった企業は契約により電気料金が通常より安いんだから、その分で従業員に休業補償をして、業務時間についてはズラしたり延長したりしないように法律で決めればいい。そうやって企業に内部留保を吐き出させれば景気回復にもつながる。」
と何かに書いてあったのを去年見た記憶があります。
その時は、なるほど「脱原発」とかの世間的に反対しづらい理由をくっつけて、企業に内部留保を少しでも吐き出させるっていうのも悪くないな、とは思いました。
ただ肝心の、それだけで停電が回避できるのか、についてはよくわかりませんでした。
管理人さんはこのアイディアについてどう思われますか。
もし過去のエントリーで既に書かれていらっしゃいましたら、そのエントリーを教えてください。
もし特に書かれてなかったり、書かれている過去エントリーの時からさらに状況が変わっている(今年は去年とは違って関西方面が深刻なようですし)ということでしたら、ぜひコメント欄でお考えをお聞かせください。


Unknown (非国民通信管理人)(2012-05-16)


それは愚の骨頂であって内部留保の活用を唱える人全体の信頼を損ねさせかねない危険な妄言です。そのような主張が垂れ流されることで、内部留保に手を付けろと説く人全体が愚かだと思われることを最も危惧しますね。


 まず内部留保は偏在していて、吐き出せる企業と無理な企業がある、日頃から内部留保の積み上げに努めて経済を停滞させてきた企業は耐えられても、内部留保を積み上げずに金銭を社会に還元してきた企業は潰れてしまうでしょう。その内部留保論は、高齢者を一律に富裕層と決めつけて年金をカットせよと迫る暴論に等しいです。


 また企業の生産活動を止めたとして、休業期間中の給与は補償できても、生産が止まれば当然のこととして社会全体に負の影響を与えます。ましてや一時的に給与を維持する程度なら十分な内部留保ではあっても、生産活動が止まって売り上げが激減することにまで耐えられるほどの額ではないのです。


 元より、強制的に電気を止めておきながら「停電を回避」も何もあったものじゃないと思うのですが。


(引用終了)


 
まず確認しなければならないのは、中川屋氏が「需給調整契約による送電停止」について質問しているという事です。
「受注調整契約」の契約内容は個別企業ごとに異なりますが、それでも「1回3時間を年数回」とか、「一定期間に全体の10%」とか、ある一定の幅に収まります。
そしてそれは、決して「履行することによって企業活動が著しく阻害される」類の契約ではないのです。
(万が一そのような「事実上履行不可能な契約」をしている企業が存在していたとしたら、それこそ企業・電力会社双方の責任が問われるべきでしょう。)
ところが、H氏はなぜか「一時的に給与を維持する程度なら十分な内部留保ではあっても、生産活動が止まって売り上げが激減することにまで耐えられるほどの額ではないのです。」と送電停止が「契約の幅に収まる」ことを理解できないor敢えて無視するのです。


さらに、「需給調整契約による送電停止」を「高齢者を一律に富裕層と決めつけて年金をカットせよと迫る暴論」と「全ての企業に対する措置」であるかのようにすり替え、送電停止が「契約企業に収まる」ことを理解できないor敢えて無視しています。


「受注調整契約」とは、「非常時に送電を停止する代わりに電力料金を通常契約より安くする」という契約です。
つまり中川屋氏の言う「内部留保」とは、「通常契約より安い電力料金によって蓄えられたもの」です。
ということは、もし契約を履行することを企業側が拒否したら、それこそ「不正蓄財」となる性質のものなのです。
また、この「需給調整契約」には「契約している企業」と「契約していない企業」があります。
そして、一定規模以下の企業は契約したくてもできないようになっているのです。
それをよりによって「高齢者を一律に富裕層と決めつけて年金をカットせよと迫る暴論」に喩えるとは、それこそ「内部留保に手を付けろと説く人全体が愚かだと思われることを最も危惧しますね」。
そもそも、このような状況になっても「強制的に電気を止められないのなら「契約」も何もあったものじゃないと思うのですが」。


おそらく、中川屋氏としては、「(関西電力管内では)『需給調整契約』の送電停止分は○○万キロワットしかないから、電力不足分には間に合わない」というようなことを書いて欲しかったんじゃないでしょうか。
しかしH氏には、おそらくはそういう方向で回答する能力がなかったのでしょう。
返ってきた回答は、見事な「THE・ナナメウエ」でした。


 


funaboristaの「需給調整契約」に対する考え方については、過去エントリー「弱者を犠牲にしたのは誰?」(http://d.hatena.ne.jp/funaborista/20120212/1329058154)をぜひ読んでください。
H氏が「大企業の味方」であることがご理解いただけると思います。


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ところでこの「非国民通信」のH氏、311以降は原発推進・東電擁護の立場を鮮明にしたことから、「震災以降H氏は変わった」とする人をよく見かけます。
ただfunaに言わせれば、H氏は全く「変わっていません」。
震災以前も、現在と同様の主張をする人でした。
funaはもう2年以上も前に、あるブロガーに
「H氏は、一見左派であるかのような主張をしていますが、いざとなったら市民運動の足を引っ張るようになるでしょうね。」
という私信を送ったことがあります。
funaにとってのH氏の主張は、ずっと以前から「なんちゃって左派」でしかなく、今でいうなら橋下の「なんちゃって脱原発」と本質的に同じだと思っています。
それでも世の中には「311以前は良かったのに」とか、さらには「今でも原発問題以外はイイ」と評価する人も結構いるようです。
本当は経済問題一つとっても、その主張は以前から行き当たりばったりの滅茶苦茶なんですけどね。
(例えば、「バブル「崩壊」防止が前提じゃないのか?(2010-11-27)」(http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/4ff866199bbb58d3b186fcac54956b8e
バブル経済には実態がないと語る人もいますが、元より景気とはそういうもののはずです。」だっておwwwwwwwwww。どうやらH氏はどうして日本でバブルが起こったのかご存じないようです。それとも知った上での「バブルよ再び」なのかなw。)


 


「お花畑めざして」歩くための一つの方法は「自分の頭で考える」ことです。
(これもある本のおかげで大変使いづらいフレーズになりましたw。自分のアタマで考えてもアレじゃーねw。)
なので、以前に内田樹を批判したように「有名人」「専門家」を取り上げることももちろんありますが、funaは「一般人」も取り上げます。
これは「批判」という側面ももちろんありますが、「(専門知識を持たない)一般人が『自分の頭で考えた』結果、間違ってしまった」事例を取り上げることで、「お花畑めざして」の読者に「自分の頭で考えるスキル」を高める一助にしてほしい、という考えからです。
(もちろんfuna自身の一助として、という面も大きいですw。)
そういう意味において、「非国民通信」は「良エントリーの宝庫」と言えるでしょう。
以前のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/funaborista/20120531/1338447486)で書いた


>過去コメント欄でやり取りしたものの1.には載せられない(=おすすめできない)サイト・ブログ


>その中には、「お花畑めざして」立ち上げの遠いきっかけとなった、今となっては感謝すべきブログ


というのは、実は「非国民通信」のことだったのです。


 


というわけで、この「お花畑めざして」では「非国民通信」を今後もときどき取り上げる予定です。