だって絆があるから

「リーガルハイ」(フジテレビ系・火曜21:00〜)
http://www.fujitv.co.jp/legal-high/index.html

第9話(6/12放送分)より





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仙羽化学と住民との和解交渉は、住民への切り崩し工作が露呈し決裂。


 
  (仙羽化学側が帰った後のふれあいセンターにて)


 
黛   :今後もさまざまな手段でみなさまに懐柔してくると思います。
     気を引き締めてください。
 

     あなたを原告団から排除しようとは思いません。
     これからも、みなさんを引っ張っていってください。


村 人 : あの


黛   : はい?


村 人 : 私は和解でいいかな、って思うんだけど。ね、あなた。


黛   : は?


村 人 : うん、そうだね。


黛   : 待ってください。仙羽化学はみなさんを騙そうとしたんですよ。


村 人 : 騙すなんて言い方しちゃ、仙羽化学さんかわいそうですよ。


村 人 : 私たちも娘にね、裁判なんてやめた方がいいんじゃないかって
      言われてるのよ。


村 人 : 2000万もあれば、みんなで分けたら一人頭100万近くにはなる。
      私たちには分相応なんじゃないかな。

黛   : 公害訴訟なんですよ。もっともらって当然なんです。


村 人 : そんなにあったって、ねえ。


村 人 : 私たちの望んでいたものは、仙羽化学さんの誠意なんです。
      今回、それがよく感じられました。


村 人 : そう、絆を、再確認できたもんね。


村 人 : 金が全てじゃないんですよ。


 
  (「そうだそうだ」村人一同拍手)


 
古美門 : 素晴らしい!
      皆さんのお考えに感服いたしました!
      さすがふれあいと絆の里だ。
      それではそのように手続きしましょう。
      黛君、後は頼んだ。さようなら。
      (立ち上がり歩き出す)


黛   : (古美門を追いかけ)先生!これでいいんですか?


古美門 : 良いんだよ。


黛   : でも…


古美門 : (立ち止まり)彼らが良いと言っているんだから。
       ですよね、みなさん?


村 人 : ええ。この世には金よりも大事な物がありますから。
      (他の村人に向かって)なあ?


 
  (「そうだそうだ」うなずく村人一同。)


 
古美門 : 見給え、彼らの満足そうなこの表情を。
      ズワイガニ食べ放題ツアーの帰りのバスの中そのものじゃないか。


      黛くん、よく覚えておき給え。
      これがこの国の「馴れ合い」という文化の根深さだ。
      人間は長い年月飼いならされると、
      斯くも「ダニ」のような生き物になるのだよ。

村 人 : なにぃ、俺達のことを言ったのか?

古美門 : 他に誰かいますか?自覚すらないとは本当に羨ましい。
      コケにされてるのも気づかないまま墓に入れるなんて
      幸せな人生だ。

村 人 : あんたちょっとヒドイんじゃないか!


古美門 : 申し訳ありません。
      最初に申し上げた通り、みなさんのような惨めな老人どもが
      大っ嫌いなものでして。


村 人 : おい若造、お前なんなんだよ。
      お前そんなに偉いのか?


村 人 : そうよ、目上の人を敬うってことはないの?


村 人 : 私たちは君の倍は生きているんだ。


古美門 : 倍も生きていらっしゃるのに、
      ご自分のことも分かっていらっしゃらないようなので、
      教えて差し上げているんです。


      いいですか。みなさんは国に見棄てられた民、「棄民」なんです。
      国の発展のためには、年金を貪るだけの老人なんて無価値ですから、
      チリトリで集めて端っこに寄せて、
      羊羹を食わせて黙らせているんです。

      大企業に寄生する心優しい「ダニ」、それが皆さんだ!


黛   : 先生、もうやめてください


村 人 : テメーだってダニに寄生しているバイキンじゃねえか!


村 人 : あたしたちの何が気に入らないの?


古美門 : かつてこの地は、・・・一面に桑畑が広がっていたそうですよ。
      どの家でも蚕を飼っていたからだ。
      それはそれは美しい絹を紡いだそうです。
      それを讃えて人々は、いつしかこの地を
      「絹美」と呼ぶようになりました。


      養蚕業が衰退してからは、稲作に転じました。
      日本酒に適した素晴らしい米を作ったそうですが、
      政府の農地改革によってそれも衰退した。


      そのあとはこれといった産業もなく、過疎化の一途を辿りました。
      市町村合併を繰り返し、補助金でしのぎました。


      5年前に化学工場がやってきましたね。
      反対運動をしてみたらお小遣いがもらえた。


      多くは農業すら放棄した。


      ふれあいセンターなどという
      中身のない立派な箱モノも建ててもらえた。
      使いもしない光ファイバーも引いてもらえた。
      ありがたいですねぇ〜。


      「絹美」という古臭い名前を捨てたら、
      「南モンブラン市」というファッショナブルな名前になりました。
      なんてナウでヤングでトレンディなんでしょう。

      そして、いま。
      土を汚され、水を汚され、病に冒され、
      この土地にももはや住めない可能性だってあるけれど、
      でも、商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた。ありがたいことです。
      本当に、よかった、よかった。


      これで土地も水も蘇るんでしょう。
      病気も治るんでしょう。
      工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、
      きっともう問題は起こらないんでしょう。


 
      だって絆があるから!!


  
村 人 : うわあああああ


  (↑の村人に古美門が殴られる。他の村人が制止。殴った村人が↓)


村 人 : てめえなんか、てめえなんか、ぶっ殺してくれる。


村 人 : 譲二の気持ちはもっともだ。


村 人 : そうよ、どうしてそんなひどいことが言えるの。あんたは悪魔よ。


村 人 : あんたなんかにゃ、俺たちの苦しみが分かってたまるか。
      俺達だってあんたの言ったことぐらいイヤというほど分かっている。
      みんな悔しくて悔しくて仕方ねぇんだ。
      だけど、必死で気持ちを押し殺して納得しようとしてるんじゃねえか!

古美門 : なぜ?
      ゴミ屑扱いされているのを分かっているのに、
      なぜ納得しようとしているんです?

村 人 : おれたちはもう年寄りなんだよ!

古美門 : 年寄りだからなんなんですか?

村 人 : 具合が悪いのにみんな頑張ってきた!

古美門 : だからなんだってんだー!


 
      だから労って欲しいんですか?
      だから慰めて欲しいんですか?
      だから優しくされたら
      すぐに嬉しくなってしまうんですか?


 
      先人たちに申し訳ないとは、
      子々孫々に恥ずかしいと思わないんですか?

 
      何が南モンブランだ。
      絹美村は本物のモンブランよりはるかに美しいと
      どうして思わないんですか!


 
      誰にも責任を取らせず、見たくないものを見ず、
      みんな仲良しで暮らしていけば楽でしょう。


 
      しかし、もし、誇りある生き方を取り戻したいのなら、


 
      見たくない現実を見なければならない。
      深い傷を負う覚悟で前に進まなければならない。
      戦うということはそういうことだ。
      愚痴なら墓場で言えばいい。


 
      金がすべてではない?


      金なんですよ!


      あなた方が相手に一矢報い、意気地を見せつける方法は!
      奪われたものと、踏みじられた尊厳にふさわしい
      対価を勝ち取ることだけなんだ。
      それ以外にないんだ!


 
      錦戸晴雄さん、あなたは元郵便局長だ。
      幾度となく閉鎖されそうになった村の郵便局を最後まで守り抜いた。


      森口三郎さんは小学校の校長先生。
      村にいた子どもたちはみんな、あなたの教え子だ。


      奥さんの久子さんは街のデパートの化粧品売場で
      月間売上の記録の保持者。


      合田譲二さんは実に100ヘクタールもの田畑を開墾した。


      川田聡子さんとご主人は田んぼをやりながら
      日雇いの仕事をいくつもいくつも掛け持った。

      富田安広さんは商店街の会長。
      毎年祭りを盛り上げて、あのクリスタルキングを呼んだこともある。


      板倉初恵さんは、女だてらにクレーン車を動かし、
      6人の子供を育て上げた。


      敗戦のどん底からこの国の最繁栄期を築き上げたあなた方なら、
      その魂をきっとどこかに残してる!


  


 
      ・・・はずだと期待した私が愚かでした。


      いいですか、二度と老後の暇つぶしに私を巻き込まないで頂きたい。
      心優しいダニ同士、お互い傷を舐め合いながら
      穏やかに健やかにどうぞくたばっていって下さい。


      それではみなさん、さようなら!


 
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(参考)http://news.thetv.jp/article/31085/