開花調査

今年も花粉症の季節となりました。
毎年「あれっ、いつの間にか治ってたよ」なんて夢を見てしまうのですが、今年もそれはやっぱり夢でしたort
funaはとにかく目がかゆいのです。
この目がかゆい季節になると、以前やっていた仕事を思い出します。


・・・・・・・・・・


funaboristaは以前、コールセンターのSV(スーパーバイザー)をしておりました。
コールセンターっていうのは、要するに電話を使ってやる仕事であればどんな仕事でも、企業からの依頼として承りますよ、っていう所です。
(もっともfunaのいた会社自体は「電話」にすらこだわっておらず、「仕事そのもの」のアウトソース全般を請け負っていましたが。)
テレマーケティング業界っていうのは、この不景気においてもなかなか勢いが衰えない業界の一つです。
企業が自前でやるよりも外注した方が安上がり、ってことでしょう。
よく「お電話は当社社員が承ります」っていうCMを見かけるかと思いますが、あれは、「バイトじゃなくて社員です」っていう意味と同時に「コールセンター外注じゃなくて自社で電話を受けています」って意味もあります。
(これが「当社専属社員」だと、外注先の会社の「社員」が「当社の専属」っていうのはOKなのかどうなのか?皆さんどう思います?)
そんな言葉ができるくらい「ああ、こんな会社がこんな業務内容まで、コールセンターに仕事を依頼してくるのか」っていうのがありました。
そしてその中には「本当にこれでいいんだろうか」って思うことも多々ありました。


例えば新聞・TVの社会調査。
funaは大手報道機関のいくつかをやったことがあります。
まずは「この内容で調査をしてほしい」という仕事の依頼が来るのですが、funaのいた会社でのSVの仕事というのは、まずは「人集め」からです。
この手の「臨時のお仕事」に、例えば社会調査に適応したスキルを持った「あらかじめ雇われていた社員・バイト」で対応するだけのコストは、会社としてはかけられないという事なのでしょう。
募集をして、集めた人に研修をして、それで実際に仕事をしてもらい、結果をクライアントに報告。
その間大体1週間。
もちろん、層化二段抽出法とはなんぞや、なんていう説明をするヒマなどありません。
つまり、社会調査という仕事の出来不出来が、その時集まったバイトの質という「運」に一定程度依存してしまうのです。
政権支持率の数%の違いなんて、現場を知ったらアホらしくなりますよ。


・・・・・・・・・・


で、この季節の「臨時のお仕事」といえば「開花調査」。
これはもちろん、植物の開花を調査するのではなくて(それなら電話は必要ありませんねw)、「サクラサク」の調査、すなわち「受験の合否結果の調査」です。
この仕事を依頼してくるのは、大手塾、予備校、通信教育など。
誰でも知っているところから、知る人ぞ知るといったところまで。
そう、テレマ業界にとって受験産業は大事なお得意様なのです。


「合格したらお知らせくださいね」とは、どの大手塾、予備校、通信教育も、受験生・親御さんに対して伝えてはある筈ですが、いざ合格となったら、嬉しいし、忙しいし、「まああとで」でいいかなって当然なりますよね。
さらに、わざわざ不合格になったところを教えるなんてのは、後日教わった先生に会ったときかアンケート用紙で、ってのが普通でしょう。
しかし、受験産業にとってのこの時期は、まさに1日が勝負なのです。


「○○大学合格××人」


この「速報値」こそ、来年度の受験生に対する最大の宣伝コピーなのですから。
この数値を1つでも上げるために、クライアントはコールセンターを利用するのです。
利用すること自体が悪い、と言いたいわけではありません。


そもそもコールセンターを利用していることを、皆さんは知っていたでしょうか?


・・・・・・・・・・


funaは「誰でもしっているところ」(以下A社)の開花調査をしてました。
この仕事は、だいたい1月末にはその年の契約を結んで、2月初めにネット・求人誌に募集をかけ、募集から研修までを約3週間で行い、約2週間の実業稼働と同時並行のデイリー報告、そして終了後の報告で完了、という流れです。


SVのお仕事は契約が済んでから。
まずは担当営業から「今年はこんな契約」っていうのを見せてもらうのですが、どのSVもその中の「『あなたは誰ですか』という質問にどう答えるか」というのをまずは確認します。
なぜなら、「『A社の社員です』っていう『ウソ』を言う」ってのは、自分自身だって嫌だし、それに「オペレーターに『ウソ』を言わせなければならない」ということは、研修・業務の難易度も一段上がってしまうからです。
しかし、SVにその手の選択権などあるはずもなく、また「ウソ」を言うと(会社がクライアントから)お金がより多くいただけるのもまた事実。
昨今、情報の流出に敏感な世の中におきましては、どこどこ大学に合格しましたなどの情報は、広く他人には知られたくないものと容易に推測できまして、したがって、御社の/我が社のイメージのためにも、ここはひとつ・・・とかなんとか・・・


・・・今回もめでたく、「より多く」いただけることとなっておりましたort


・・・・・・・・・・


でもこれ、大変なんだよね。
オペレーターはまず、クライアント先の社長、(設定上の)自分の所属する部署名、直属の上司、本社の住所、会社の組織表等々を覚えなくてはいけません。
とはいっても、覚えた上でパソコンに紙のアンチョコを貼っておくんですけどねw。
そして大事なのがビジネスネーム(笑)。
この仕事、100人以上のバイト・パートが一斉に電話をかけるのですが、「社員」がそんなにいたらいろいろと不都合なことも起こります。
そこで、男性/女性それぞれ数人の「架空の社員名」を設定しておいて、誰が電話を掛けた時にもそのどれかの名前で掛けたことにするのです。


ここで、コールセンターでのアウトバウンド業務(こちらから架電するお仕事のこと)を軽く説明しましょう。
オペレーターはインカムをつけてパソコンで電話を掛けるのですが、架電先は通常メインのパソコンから指示が出され、オペレーターが選ぶことはできません。
つまりパソコンが「勝手に」電話を掛ける(架電する)のです。
オペレーターの画面には、「電話を掛けた瞬間に」架電先の情報が表示されます。
今回の場合、


「架電先の学生氏名、学校名、受講講座名。何回目の架電か。以前の架電履歴(不在、留守電対応含む)。以前いつ、誰が、なんというビジネスネーム(笑)で掛け、どんな内容を聞き出したか。今回の架電で聞くべき内容は。そして今回、自分はなんというビジネスネーム(笑)で架電したことにする『指示』なのか。」


これらの情報を、オペレーターは「画面が表示された瞬間に」(つまり呼び出し中の数秒間に!)読み取り、架電先の「どちら様ですか?」に対応しなければなりません。
パソコンが架電するまで、「自分の名前」がわからないのです!
しかも電話が切れてから、一定時間でパソコンが「勝手に」次の架電をしてしまいます(このお仕事は30〜60秒の設定でした)。
通話中のパソコン入力は必須、手書きでのメモ取りなど時間的に不可能です。
休憩時間は1時間につき5分、その間オペレーターは息をつくヒマもありません。


「一部屋数十人が簡易パーテーションだけで区切られたブースに張り付き、次から次に「PCが勝手に掛ける≒掛かってくる」電話に息つくヒマもなく対応する」


この光景、遠目に見ていると、さながら養鶏場のようです。


・・・・・・・・・・


SVは養鶏場の管理人です。
と書くと、オペレーターより楽してそうな印象を受けそうですが、(仕事にもよりますが)決してそんなことはありません。
なぜなら、クレーム処理を一手に引き受け、自分の所で必ず食い止めなければならないからです。
このおしごとではfunaはクライアント先の「係長」設定(笑)でしたが、架電先から「課長を出せ」「社長から電話を掛けさせろ」となどと「絶対に」言わせてはいけないのです。


でもねえ・・・受験生や、その親御さんにしてみれば、合否発表の直後に何度も(必要情報がすべて聞き出せるまでは「最低8回架電」が契約条件、実際は10回以上でした。)電話を掛けてこられたら、特にまだどこも合格してなかったら、そりゃ怒りますよね。
各オペレーターは、「(あとでこっちから電話するって言ったじゃないか、と言われて)あ、そうでしたか。大変申し訳ございません。○○にはよく言っておきます。…それで大変恐縮ではあるのですが、また後日お電話していただくお手数をおかけする、というのもなんですので、先日発表の○○大学の件ですが、もしよろしかったら結果をお伺いしてもよろしいでしょうか。」なんて、こういうのも何通りもスクリプト(台本のようなもの)があるんですが、それに従って一生懸命頑張ってくれます。
しかし、「後で電話する」という申し出に対して「わかりました」とその場で言うこと自体はオペレーターに許されてはいても、会社とクライアントとは「クレームになるまで何回でも架電する」という契約なので、「だから電話しない」というのは許されないのです。
結局、先ほどの「お詫びからのモニタリング」が、その後何回も繰り返されることになります。
ちなみにパソコンには、同じオペレーターが架電しないよう、また同じビジネスネーム(笑)で架電しないよう、あらかじめプログラムが組んであります。
何回も違う人が同じことを繰り返したら、そりゃ怒りますよね。
でもやめません。
なぜなら、「業務全体でいくら」の契約じゃなく、「一件聞き出せたらいくら」の契約だからです。
そして、クライアント先の意向は「何度も架電せよ。ただしクレームは起こすな。我が社の評判を落とすな(むしろ高めよ)。それがプロのコールセンターだ。」なのです。


そんな中、設定上の「係長」(笑)たちは、特に架電回数が増える業務終盤、「自分たちでわざわざつくり出した」クレーム対応に追われ続けることになるのです。


・・・・・・・・・・


「『A社の社員です』っていう『ウソ』を言う」


このたった一つの「ウソ」が、仕事をムダに難しくし、現場労働者に過剰な負担をかけています。
しかし、それ以上に問題なのは、この「ウソ」は果たして「いいもの」なのかどうなのか、法律上許されるものなのか、社会通念上許されるものなのか、そういったことが「世の中で広く検討される」ということが一切ないことです。


普通の会社でも、入社時には守秘義務がうんたらいう書類にサインさせられます。
テレマーケティングのようなアウトソースを受けて個人情報を扱う会社となれば、そりゃあもう何枚も何枚もサインさせられます。
そこには「こういうことはいけないよ」ということで、「どんな会社とどんな業務内容の取引をしたか」ってのも書いてあります。
しかもご丁寧に「会社を辞めてからも、一生ね」だそうで。
(でもこれ、転職時の面接で「あなたのキャリアは」って質問されたら、回答に困っちゃいますよねw。それとも「こういう会社のこういう業務をやってました」って言ったら、「辞めたからといって秘密情報を漏洩するような人間は我が社にはいらん」ってなるのかしらww。)


「いけないこと」の中には「社会通念上許されないこと」とも書いてあります。
つまり、今回私の書いた「具体的な『どんな会社と』を抜きにした、どんな業務内容の契約をしたか」が、「社会通念上許されないこと」と会社が判断すれば、私を訴える事も可能なのです。
そしてそれは「社会通念上」ですから、その(裁判等での)最終判断は世の中のみなさんが基準になります。


・・・・・・・・・・


先に、私は「そういったことが『世の中で広く検討される』ということが一切ない」と書きました。


「社会通念」とは、要するにそういう閉鎖的な状態そのもののことです。


つまり、「社会通念」は限りなく私に冷たい判断をする、という予測が容易に立ちます。


これは公表された内容が「社会通念上認められない」事であっても、おそらく関係ないでしょうね。


それはそれ、これはこれ、裏切り行為はいけません、なんてね。
「ルールはルール」とか、大阪方面で最近よく聞かれます。


・・・と、こうやってみんなして悲観的に予測し合うことで、
「社会通念」はますます高みにのぼっていきます。


たまに「勇気ある者」が出てくると、奴隷のルサンチマンが刺激されるのか、
「卑怯者」という間違った日本語のレッテルを貼って全力で潰しにかかります。


そのくせ、いったん「社会通念」がその企業を「悪」と認定すると、
手のひらを返したように「その会社だけは」ブラックとして袋叩き。


しかし、「勇気ある者」が正しかったと認めることは絶対にありません。
なぜなら認めることは「みじめな奴隷の自分」を認めることだから。


そして、「うちの会社」を社会に評価=批判してもらおうとも決して思いません。
なぜなら奴隷は、知っているから。


・・・・・・・・・・


今は「企業の健全化」を「消費者からの批判」のみに頼っている状態です。
これはむしろ、企業にとって「都合のいい」状態と言っていいでしょう。
この方向では、企業の、そして従業員の「隠蔽体質」はこれからますます加速していくだけです。
今回の「ウソ」の件などは、むしろ「○○という情報は、これを『秘密情報』としてはならない」というような法律をつくってでも、「秘密情報」に対してその成立条件に厳しい規制をかけるべきだとfunaは考えます。
「消費者目線」とは、矛盾や問題を企業に(=従業員に)押し付けることに他なりません。
いえ、押し付けること自体が悪い、と言っているのではありません。
押し付けた上でさらに、その矛盾や問題を解決させるための「市民目線」が必要なのです。


そして、今回の「ウソ」を許せないと思った人がするべきは、実際に「ウソ」をついた人を吊し上げることではなく、金の力で「ウソ」をつかせた人を吊し上げること、でもなく、「ウソ」がつけないように企業を可視化すること。
そして、そういう意見を言うと必ず出てくる「競争力ガー」という勢力に、納得したり屈したりせずに「抵抗」することです。


「ウソ」は、ゆっくりと、心を蝕みます。
「抵抗」できない人は・・・その時点で自らにいくつもの「ウソ」をついていることにだけには、どうか気がついてください。


・・・・・・・・・・


今年も「開花調査」の季節が来ました。


研修中に「私、ウソはつけません」と言って帰って行った人がいました。
その様子を、ほとんどの人が帰らずに横目で見るだけで、そのまま研修を続けました。
次の日、数人が研修に来ませんでした。
業務が始まった初日、何人もの人が「今日で辞めます」と去っていきました。
最後まで頑張った人も大勢いました。


「ウソ」をつかせた人たちは、最後まで大忙しでした。
「ウソ」をつかせるようにお仕事で頼んだ人たちは、いつも偉そうでした。
「ウソ」をつかせるようにお金で頼んだ人たちは、いつもニコニコ笑ってました。


すべての人に、仕事のための「ウソ」がいらない社会となりますように。