永遠の途上国

ごめんなさい。
書きたいことはいっぱいあるんですけれど、体力・気力がまだ回復しません。
今回も、過去の他ブログへの投稿コメントの再録での更新とさせていただきます。
(一部加筆修正あり)


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永遠の途上国


 


更に安い労働力を求め、韓国から中国に生産拠点を移したのが10年前。
ここ数年の中国は、予想通りの右肩上がり。
我が社の業績も右肩上がり、今年も経常利益は史上最高!


・・・でもその結果、当然人件費も右肩上がり。
最近はストライキなんてもんまで流行りだす始末。
晴れて中国も先進国の仲間入り。
うちもそろそろ移転時。
次はどこへ行くことになるんだろう。
東南アジア、南米、それとも・・・


なんて事を考えてたら・・・社長から電話。
日本に戻って来いという。
すみません、ストライキは何とかします、次はもっとがんばりますと言ったら、
社長は笑って、何言ってるんだ、君は良くやってくれてるよ、
でももう海外移転なんかする必要はないんだよ、と、こんな話をし始めたんだ。


企業経営でコストが一番かかるのは、結局のところ人件費。
だからこそ安い人件費を求めて、日本を脱出して途上国へ進出。
そのうち人件費も経済とともに成長してしまうから、今度は別の途上国へ進出。
・・・でも、この人件費の差を利益にするビジネスモデルは、結局いつかは行き詰まる。
なぜって・・・地球上から途上国がなくなってしまったら終わり。
世界中どこでも人件費に差がなくなってしまうから。
・・・そう、要は人件費に差があればいい。
それには、経済成長しない国があればいい。
いや、経済成長しても人件費が成長しなければいい。
それには・・・


ここまで聞いて理解した。
日本中が経済を実態より高く偽装し続けた、あの「バブル」が行き詰まったのが20年前。
今度はなんと、実態よりも「低く」偽装し続けるつもりらしい。
確かに日本に合っている。
何より日本人に合っている。
「労働」に「対価」を求めず、「生活」に「権利」を求めず、「社会」に「正義」を求めない。
デモもなく、ストもなく、労組にも入りたがらない。
行き詰まったところで、ひっそりと(自ら)身を引いていってくれる。
そんな人材、世界中のどこ探したって見つかるはずがない。


もうこれからは、日本から海外に企業が流出することはないだろう。
むしろ他社も同じように、これからどんどん日本に戻ってくるだろう。
戻ってくるどころじゃなくて、海外企業もこぞって日本へ進出してくるだろう。
もしかしたらこの20年、政財界ぐるみでこの「ビジネスモデル」を構築したのかもしれないな。


 
そう、我が社を初めとした大企業の為に、日本は永遠の途上国になったんだ。
 


でもまてよ、永遠の途上国ということは・・・
 


話を一通り聞いたところで、俺は社長にこう言ったんだ。
「すみません。私、会社を辞めてこの国に残ります。」


翌日からは転職活動、現地企業にはすぐに採用された。
相手企業にとって、俺は理想の人材だったらしい。
そして今、日本に戻ってきてるってわけ。
なぜって?
俺に与えられた任務は、日本進出のプロジェクトだから。


 
アメリカ、韓国、中国、インド。
これから日本に企業がどんどん来るぞ。
いままでぬるい体質だった日本企業に勝ち目はないぞ。
勝ち目がないからっていったって、もう移転する国はないんだぞ。


・・・だから、なあ、うちの会社に来ないかい。


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「中国へ出張していた日本人が、このまま日本企業にいたらヤバいと気がついて、現地企業に転職してヘッドハンターになった」という設定で書いてみたショートショートです。
書いたのは去年の一月なんですが、私としては数年後の未来を想定していたつもりでした。
しかし、「その時」は意外に早くやってきたようです。


人件費急騰で「脱中国」の動き加速 日米製造業、自国に回帰


日本企業続々撤退する中国 賃金上昇と権利意識の暴走リスク

記事の内容は引用先がアレなもんでアレですし、原発事故を経て「反原発というシングルイシューであれば」デモも参加者を集められるようになりましたが、いずれにせよ私たちが「成熟したデモ」しかできない国民でいる限り、いつまでたってもそれにふさわしい所得しか得られないでしょう。
なぜなら国や企業は、私たちがいつまでも従ってると思うから。