日本の景気は賃金が決める・1

いわゆる「アベノミクス本」が、既に何冊も何十冊も出版され、書店に並んでいます。


私は、ここ数年は諸事情によりなかなか本を買うことができず(ただビンボーなだけですw/20代のころは本代に月数万円は使えていたのにort)、そのほとんどを立ち読みで済ませてしまうので、本屋が実質図書館がわりなんですが、この本に関しては、少しパラパラっと読んだ時点で「これは家でゆっくり読まなきゃいけない本だ」ってことで、実にひと月ぶりに本を買いました。
(大した値段じゃないのに、購入に結構な決断が必要なのが悲しい。)


「日本の景気は賃金が決める」


日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)

日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)

で、一通り読んだので何か書こうと思ったのですが、むしろネット上からこの本についての書評を集めてみて、どんな本なのか知ってもらった方がいいんじゃないかと思い(いろんな視点からの書評を見てもらうことができるし、なんてったってラクw)、以下にリンク先と、そこに書かれている内容を少し抜粋して紹介したいと思います。


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東京新聞Web・書評


「日本の景気は賃金が決める 吉本佳生 著」


◆格差縮小の必要性を説く
[評者]根井雅弘=京都大教授
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013060202000165.html


景気をよくするにはどうしたらよいかという議論が盛んに行われているが、本書は、賃金格差の拡大が不況を深化させたという基本的な立場に立って政策提言した問題提起の書である。

 安倍内閣の発足以来、マスメディアによく登場するようになった「アベノミクス」とは、「三本の矢」(大胆な金融政策、機動的な財政政策、産業の成長戦略)に支えられた経済政策のことである。このなかで「大胆な金融政策」がとくに注目を浴びているが、著者は、たとえ2%のインフレ目標が達成されたとしても(円安や資源価格高騰によって達成される可能性はあると著者はみている)、それは例えば複数の子供がいて教育費のたくさんかかる世帯に打撃を与えるので景気回復にはつながらないと言う。

 現在、「男女間」「企業規模の大小」「正規・非正規などの雇用形態」「勤続年数の長短」による賃金格差が歴然と存在しているが、弱い立場にいる労働者ほど消費性向(所得のうち消費に回す割合)が高いのだから、「賃金格差の大幅な縮小なくして、本格的な景気回復はない」と著者は主張する。論理は明快だ。


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Stairway to Heaven:橘玲


「【書評】日本の景気は賃金が決める」
http://www.tachibana-akira.com/2013/04/5776


エコノミストの吉本佳生氏は、スタバの価格から世界経済まで、あらゆる経済現象をわかりやすく解説することで人気がある。だがいちばんの魅力は、経済統計などの基礎データを徹底的に読み込んで、そこから思いもよらない結論を導き出す手際の鮮やさだ。

『日本経済の奇妙な常識』はそうした特徴がよく出た一冊で、あまりに驚いたので「日銀の金融緩和がデフレ不況を生み出した」で紹介した。新刊『日本の景気は賃金が決める』はその続編というか、「アベノミクス版」だ。


最近になってようやく経済メディアでも話題にされるようになったが、吉本氏は前著で、「日本の不況の本質は賃金デフレだ」ということをいち早く指摘している。投機マネーによる資源価格の高騰で輸入物価が大きく上昇したものの、中小企業はそれを価格に転嫁できず、従業員の賃金を減らして生き残ろうとしたのだ。


その結果なにが起きたかを、この本ではさまざまな国際比較によって明解に示している。


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404 Blog Not Found:小飼弾


「唯一読むに値するアベノミクス本 - 書評 - 日本の景気は賃金が決める」
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51864994.html


アベノミクスが潤しているのは、現時点ではすでに資産を持っている層。あまり大声で言いたくなくはないが、私もそこに入っている。もし経済というものがそういう層のみで営まれているものであるならば、これは寿ぐべきことであるはずだ。


しかし私もこの程度は知っている。それでは経済は回らずよどむことを。


経済を回す一番の方法は、カネを一番使ってくれる人々に金をまわすということだ。


それは誰か。著者も言う通り、"女・小・非・短"、女性、中小企業従業員、非正規従業員、短期雇用者なのである。ところがこの国は「失われた20年」で、まさにその逆"男・大・正、長"、男性、大企業従業員、正規従業員、長期雇用者の既得権をいかに損なわないかという政策をずっと進めてきた。


その結果が、こうである。


右はP.271の図であるが、「子どもの貧困」も指摘しているとおり、再分配の結果、貧困が悪化しているのである。「こんな愚かな社会保障政策をやっている国は、三〇の先進国の中で日本だけです」(P.272)。アベノミクスの中にそれを助長しようという政策は目白押しでも、それを是正しようという政策は今のところ見当たらない。


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HONZ


ポジショントークを越えて。-『日本の景気は賃金が決める』:深津 晋一郎
http://honz.jp/25581


本書には、非常に多くの図表データが登場する。その数、300ページの新書にして68個。それぞれの作りも非常にシンプルで分かりやすく、書店でパラパラとページを繰って、目に留まった図表を眺めているだけでも、多くの示唆が得られるはずだ。「ポジショントークしなくても、必要なことはデータが語ってくれている」、そんな著者の想いがビシビシと伝わってくる。そしてまた、本書が取り上げている幾つかのデータ自体も、非常に刺激的なのだ。68個の図表データから浮かび上がってくる日本経済の今の姿。それこそが本書の最大のテーマだ。アベノミクスに対する考察も、本書の重要な軸になっているが、本書が何よりも重視しているのは、「データが示す日本」を素直に読み解くことであり、いわゆる「アベノミクス関連本」とは、様々な意味で一線を画している。


本書における著者のメッセージは明快であり、本書のタイトルにある通り、「日本の景気は賃金が決める」ということだ。でも、「賃金が決める」とは、具体的にどういうことだろうか。誰の賃金が、どのようになれば、景気は好転するのだろうか。いや待てよ。「賃金が景気を決める」と言うけれど、そもそも、景気がいいから賃金が上がるんじゃなかったか。
そういう自然な問いに努めて客観的に答えるために、本書には68個もの多様な図表データが用意されているのだ。


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アゴ


格差是正が成長を生む -『日本の景気は賃金が決める』:池田信夫
http://agora-web.jp/archives/1530855.html


本書はそれ(funa注:「リフレ本」のこと)とは違って、デフレが起こったメカニズムを定量的に示している。それは吉川洋氏が示したのと同じく、賃下げである。次の図を見ただけでも、強い相関関係は明らかだろう。しかも「デフレが賃下げをもたらした」という因果関係はありえない。平均給与(名目賃金)の引き下げがデフレに先行しており、しかも低下率が大きいからである。賃下げは特に中小企業に著しく、そのコストの8割は賃金だから、これだけでデフレを説明するには十分である。


ところが最近にわかに出たリフレ本は、どれもこの賃下げにふれず、「どこの国でも新興国から安い商品を輸入しているが、日本だけデフレなのは日銀が原因だ」という昔ながらの言い訳をしている。しかし吉川氏も示すように、同じ時期に欧米の名目賃金は6〜8割上がったのだから、日本だけデフレになったのは賃金上昇率が欧米より9割以上も下がったことが決定的な原因である。先日の「朝まで生テレビ」では、飯田泰之氏も「吉川先生にどう説明しようか困っている」と言っていた。


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と、前回のクイズの答えが“落ち”なんですけれど、まあそれでも、少なくとも今回抜き書きした部分に関して“そんなに変なことを言ってるわけじゃない”ってのだけは、わかっていただけたんじゃないかと思います。


私が抜粋した部分以外でも、例えばHONZの書評などは“ポイントを押さえた実にいいまとめ”になっていますので、是非それぞれのサイトを訪問して読んでみてください。




(7/4追記)


いまさらながら、そして一つ前のエントリーにも同じことを書いていて”ひつこい”ですが、それでも(指摘されたので)一応誤解の無いように書いておきますが、このエントリーを以って、池田氏を擁護したり、ほら池田氏にも少しはいいところがあるよ、とか、そんな意図はまったくありません。
むしろ、あの池田氏ですらこの程度のことは理解している、ということを言いたいのであって、たとえばこちら(http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/713825b042ffbcb5747ef9ff49800512)の方が
「この浜田氏のトンデモ発言には、かつて浜田氏の講義を聴いたという新自由主義経済評論家の池田信夫氏でさえ、「デフレの原因は名目賃金の低下である」と真っ向から批判しています。」
と書かれているような、そういう意味合いでかかれたものである、とご理解ください。