一夜漬け・選挙に出る「アベノミクス」

アベノミクス」や「リフレ」について、選挙前にはなにか書こうと思っていたのが、忙しさにかまけてもう前日。

なんとか無理矢理書いてみて、もうヤケクソで「一夜漬け」設定にしてみました。
(そういえば学生の頃からこんな感じで一夜漬けばっかりだったなあ)

今回は「もうリフレとかアベノミクスとか、明日選挙なのによくわかんない。大体、今までのお前(funaborista)のブログも何言ってんのかわかんない。」という人向けです。

ですから、細かいこと言えば間違っているところも、たぶんあります。

でも大筋では間違ってない、はずです(読み直ししてないのであまり自信はありませんw)。

途中難しい所があっても、またすぐに易しくなりますので、最後まで(飛ばし飛ばしでも)読んでやってください。


1.「リフレ政策」とは


昔から、景気が悪い時には、銀行から企業への貸出金利を下げて、資金を借りやすくするようにすることで産業を活性化することが定石とされてきました。

しかし現在、(これにはさまざまな原因がありますが、今回はその話はしません)日本は、いや日本だけではなく全ての先進国は、以前のような“経済成長がしやすい社会”ではなくなってしまいました。

それにつれて銀行の貸出金利もどんどん下がり、今では「ゼロ金利」と呼ばれるまでになりました。

さすがに金利を「ゼロ以下」に下げることはできませんので(まさか借りた額より返す額が少なくていいという「マイナス金利」での貸し出しはできませんので)、もうこれ以上貸し出しを増やすことはできないだろう、と多くの人は考えました。

しかし、それをなんとかしようと考えられたのが「リフレ」です。


「リフレ」とは、

「近い将来インフレが起きる、と人々に予想させる」

という政策です。

もし、人々が「近い将来インフレが起きる」と予想したら、そのあとどのように考え、どのように行動するでしょう?

手持ちの資金は、近い将来その価値を減らすことになりますので、フツーの人=自然人(家計サイド)であれば、“いずれ必要になるものであれば今のうちに買っておこう”と考える、かもしれません。

また、法人(企業サイド)であれば、“手持ちの資金をそのまま持ち続けて価値を目減りさせるよりも投資しよう”と思うかもしれません。
また、(ここ、選挙に出ます(1)!→)インフレということは“実質的な金利は下がる”ので(同じ投資額でできた同じ製品でも、インフレ下の方がより高い金額で売れるため)、今まで借りるのを控えていた企業であっても、銀行から融資を受けようとするようになるかもしれません。

このような、

「(名目上の)金利をこれ以上下げられないので、インフレを起こして将来の貨幣の価値を下げることで、実質的な金利を下げよう」

こういう考え方をリフレーション、それを起こそうとする政策を「リフレ政策」と呼びます。

リフレ懐疑派(の一部)は、これはエコポイントのように「消費の先食い」でしかなく、駆け込み需要の後は反動の不景気が来るだけ、と批判します。

しかし、リフレ支持派は、「景気が循環し、その結果インフレが起きれば、それはその時点で振り返ってみれば『経済成長した』ということであり、実体が伴うのだから『先食い』ではない」と反論します。
(参考:「解説『Prosperity Built By Abenomics』」内の「5.インフレ目標をめぐる混乱した議論」)

これについては、現時点ではどちらともいえません(結果的にどちらに転ぶ可能性もあります)。


・・・と、ここで注意。

時々「貨幣を増やしてインフレにすれば景気が良くなる」と主張する方がいらっしゃいますが、これは「リフレ政策」という考え方とは似て非なるものです。

「リフレ政策」とは、あくまで「人々に“インフレ予想”をさせる」ことで「投資・消費を促し」「その結果として景気が向上しインフレが起きる」という考え方のことです。
(↑ここ、選挙に出ますw(2))


2.「リフレ政策」の弱点


この「リフレ政策」の最大の弱点は、「どのようにしたら“近い将来インフレが起きる”と人々に信じてもらえるのか」という、人々の予想を形成するためのツールが“まだ発明されていない”ということです。
(将来にわたって発明できない可能性ももちろんあります。)

もし、「Prosperity Built By AbenomicsComments」のような“優秀な催眠術師”がいれば、この弱点は即座に解決しますが、現実の経済世界にはそのような“都合のいいもの”は存在しません。
(ですから(私も含めて)「リフレ懐疑派」などという“催眠術にかからない人々”が存在するのです。)

この指摘に対し、リフレ支持派は、

「日銀が国債を大量に購入してマネタリーベースを増やせば、インフレ期待が高まり、投資が増えて景気が向上し、結果インフレとなりマネーストックも増える」

(↑この理論の是非については後で検討します)

という「理論」によって、インフレ期待を形成しマネーストックを増やす(つまりは銀行貸出を増やす)、としています。


・・・と、ここで用語解説です(↓選挙に出ますの(3))。

マネタリーベースとは、「現金通貨と(民間金融機関の)日銀預金の合計」のことです。

マネーストックとは、「金融機関と日銀を除いた経済主体(一般法人、個人、地方公共団体等)が保有する通貨の合計」のことです。

つまり、一般銀行が、手持ち資金を一般企業に貸し出したものについては「マネーストック」、日銀に預金したものについては「マネタリーベース」になるのです。
(私たちが(一般の)銀行に預けている(定期でない)預金は、いつでも現金化可能である必要があるため、マネーストックとして扱われています。)

(用語解説ここまで)


今、日本で「金融政策」として行われていることは、↑でリフレ支持派が主張している考え方をベースに、

国債を発行し、それを日銀が購入して、その代金を一般銀行に振り込み、一般銀行はその代金をそのまま日銀に預けてマネタリーベースを増やす」

ということです。

「マネタリーベースを増やせばインフレ期待が高まる」

これを狙ってひたすら国債を買い続けている、ということのようなのですが、果たしてこの考え方は正しいのでしょうか。

また、政府は本当にこの考え方(だけ)に基づいて、マネタリーベースを増やしているのでしょうか?


3.「輪転機をぐるぐる回す」のはなぜいけないのか


と、その前に思い出してほしい話題を一つ。

昨年、安倍氏が「輪転機をぐるぐる回す」と発言し、問題になったことがありました。

結局、安倍氏本人が「無制限に紙幣を増刷して市中に流通させる、という意味ではない」として、とりあえず問題は収束しました。


ところでこの発言、何が問題なのでしょうか?


もし政府が、貨幣量を好きなように増やせるならば、赤字国債なんかに頼らずに貨幣をバンバン増やして、そのお金で財政を賄えばいい、そうすれば極端な話税金なんか必要ない、そう思ってしまうかもしれません。

(実際にそのように主張する(怖いもの知らずの)ブロガーもちらほら見受けられます。)

しかし、もしそれを実行してしまうと、実際には「古典で学ぶ『貨幣数量説』」mの(イワンの馬鹿の)タラスの国のように、「増やした貨幣の分だけ富が増える」のではなく、「増やした貨幣の分だけ貨幣の価値が暴落」して、「国に財源ができた分だけ国民が貧乏になってしまう」のです。

(だいたい、貨幣を増やしてインフレを起こすだけで財政問題がどうにかなるのなら、スペインやギリシャのような問題は起きないはずです。つまり、この手の主張はすべて“トンデモ”なのです。←ここ、括弧内ですが選挙に出ます(4))

結局、「紙幣を増やしてそれを国の財源に充てる」ということは、実質的には「広く薄く税金を徴収する」のと同じ効果を持っているのです。

これが俗に「インフレ税」と呼ばれるものです。

これは“国会の承認のない”しかし“実質的な税金”なのですから、もしこれを実施した場合、「憲法第29条の財産権」に抵触する恐れがあるとも言われています。

(参考:「インフレ税はなぜいけないか?」「インフレ税が不公平である理由

輪転機をぐるぐる回す」発言は、この「インフレ税」を連想させた発言でした。

だから問題になったのです。


まあ実際には、発行された紙幣を直接「政府の財源」にしたり、逆にそのまま「市中にばらまく」といったことはなく、国債を発行し、購入分が銀行預金となる」ことで、「“紙幣発行が直接インフレの原因になる”ことをむしろ防いで」いるのです。

そして、その後に「一般の企業等が銀行から、例えば融資を受けたりする」ことで、貨幣は市中に出回るのです。


現在は不況で、「融資」が思うように伸びませんから、なかなか市中に貨幣は増えません。

これを以って、(多くの)リフレ懐疑派は、

「マネタリーベースをいくら増やしても、それによってマネーストックが増えるわけではない以上、量的緩和は無意味」

という批判をしています。

これに対し、リフレ推進派は、

「マネタリーベースとマネーストックには相関関係がある。ただし、マネタリーベースはマネーストックに比べて規模が大きいから、マネーストックを少し増やすためであっても、マネタリーベースを大量に増やさなければならない。」

と反論するのが一般的です。

(同様に、03〜07年の好景気が持続しなかったのは金融緩和が足りなかったからだ、と主張します)

ここではその是非までは立ち入りませんが、ただこれだけは言えます。

バブル崩壊前は「マネタリーベースを増やしただけマネーストックも増えていました」が、バブル崩壊後は「マネタリーベースを増やしても、その量の10分の1程度しかマネーストックが増えなくなりました」。(←ここ、選挙に出ますの(5))

そのくらいには「マネーストック」は「マネタリーベース」に影響されにくくなっているのです。

(参考:http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-date-201305-1.html/この記事自体にはやや問題がありますが、リフレ支持派自身の言葉ということを重視してあえて参考として取り上げます。)


この状態を「流動性の罠」と言います。

(「流動性の罠」については、各自での学習とします。)


ところで、10分の1程度に下がってしまった“マネタリーベースがマネーストックに与える影響”ですが、これは果たして“直接影響を与えている”ものなのでしょうか?


それとも「マネタリーベース増→何か→マネーストック増」のように、“間接的に影響を与えている”ものなのでしょうか?


それを次に見ていきたいと思います。


4.BEIの上昇はリフレ成立の根拠とは言えない


(「後で検討します」としていた“理論”を、ココで取り上げます)


先に

>そして今、日本で「金融政策」として行われていることは、
国債を発行し、それを日銀が購入して、その代金を一般銀行に振り込み、一般銀行はその代金をそのまま日銀に預けてマネタリーベースを増やす」
ということです。

と書きました。

その理由が

「マネタリーベースを増やせばインフレ期待が高まる」

という理論なのですが、これは現在の経済学では、実は「正しいとも間違っているともいえない」のです。


どういうことか?

先の「量的緩和は無意味」に対し、リフレ支持派の人はきっとこのように反論するかもしれません。

「そんなこと言っても、実際にはマネタリーベースを増やし続けたら、BEI(ブレークイーブンインフレ率)が上がったじゃないか」と。

(BEI(ブレークイーブンインフレ率)とは、通常の国債物価連動国債との利回りの差(国債の利回り - 物価連動国債の利回り)のこと。この値がプラスならインフレ、マイナスならデフレを“市場が予想”していることになります。)

しかし、これをもって「インフレ期待→好景気」のリフレサイクルが始まったとは、実は言えないのです。

なぜならBEIでは、「A.マネタリーベース増→インフレ期待→好景気」の順番でインフレを予想して投資をした人と、「B.マネタリーベース増→好景気→インフレ期待」の順番でインフレを予想して投資をした人との区別がつかないからです。
(↑ココ、選挙に出ますの(6))

つまり、BEIの上昇を以って、「予想インフレ率が上昇した」、まあここまではいいのですが、それを「リフレ成立(成功)の根拠」として扱うのは、実は誤りなのです。


ここで正直に申し上げます。

Aの理路が、実は私(funaborista)には、よく理解できていないのです。

(これは、人は「インフレ予想」を立てれば消費を増やす、という選択を私はしない、消費を増やすという選択をする人の気持ちはわからない、ということでもあります。なぜ将来の不安に備えて無駄な出費を手控え貯蓄しないのだろう、と。)

ですから、世の中にはなぜかそのように(インフレが起こると)思う人もいる、としか私には説明できません。

しかし、B.の理路であれば、これはわかります。

「マネタリーベース増→好景気」が起こる経路が現実に存在するからです。

それは「外需」です。


5.外需による景気回復


マネタリーベースを増やすと、為替市場では、円の量が増えるのですから「円安」になります。

実際に、異次元の量的緩和を進めた結果、今までの円高から円安に転換しました。

するとどうなったか。

輸出産業を中心に業績が改善し、景気が良くなったのです。

こうなれば、過去の例から「景気が良くなる→物価がインフレになる」と予想するのは妥当、と言っていいでしょう。

(もちろん条件次第で、好景気→インフレが起こらないこともありますが。)

「B.マネタリーベース増→好景気→インフレ期待」については、このように「円安による外需拡大」という経路で起こるということが、実は吉川洋氏(現経済制度審議会会長)等により以前から予想されていて、今回の「バズーカ砲→企業業績改善」は、まさにこの予想通りの出来事が起こったと言えるでしょう。

(ちなみに、「A.マネタリーベース増→インフレ期待→好景気」は岩田規久男氏(現日銀副総裁)の説(いわゆるオーソドックスなリフレ説)で、この説が正しいかどうかはもう少し時間が経たないとわかりません(参考:「http://10年前の岩田・黒田論法と「次元の違う金融緩和」の弱点検証」)。
また、吉川氏と岩田氏は「デフレと賃金の関係」についても意見を異にしており、吉川氏は「賃金の低下がデフレの原因」、岩田氏は「デフレが賃金低下の原因」としています。)
(ココ、選挙に出ますの(7)。以上がfunaboristaの選挙に出る7つのポイントですw)


さてここで一つ、大事なことを指摘しなければなりません。


「円安→外需→好景気」が実証されたということは、つまり「日本の不況は供給力に問題があったから、ではない」ということが実証されたということです。

これにより、もしかしたら

「日本の不況は内需が弱くなったから」という「賃金デフレ説」が間接的に証明されてしまった

かもしれないのです。

(まあここまで言っても、リフレ支持派は「日本はデフレだから(買い控え等で)需要が弱いのであって、海外はインフレだから需要が強いのだ」と主張するのでしょうけれど。)

いずれにせよ、円安で企業が外需で取り込んだ富を、いつかは賃金として(もしくは法人税として)家計サイドに流さなければ、景気は循環しない(内需は拡大しない、経済成長しない)わけでして、では「アベノミクス」は、この先いったいどのような「内需拡大策」を予定している(と予想できる)のでしょうか・・・


・・・ということで、いよいよ本題に入ります。


と、思いのほか長くなりましたので、ここで一旦区切って、以降は「後編」に続きます。


(なお、試験、じゃなかった、「選挙に出る」の設定は「前編」で終わり。結構疲れるんだこれ。)