アベノミクス

前々回前回は「バブル」について書きました。


簡単にまとめると


「株式は、その企業が持つ実体価値に対して過剰に発行すると価格が下がる。」


「それを“株式を持ち合う”ことで価格が下がらないように詐欺工作をした成果が『バブル』、その結末が『バブル崩壊』」


「経済には必ず『実体』が伴わなければならず、たとえ数字の操作だけで好景気を偽装したとしても、最後には必ず破綻が訪れる」


ということです。


さて、「バブル」の原因(の一つ)は「株式の過剰供給」でしたから、その結果として「株式価格の暴落」という現象が起きましたが、もし「貨幣の過剰供給」が起きたら・・・これは「貨幣価値が相対的に下がる」ということですから、その結果起こるのは「インフレ」です。



そう、今回は「アベノミクス」の話です。




・・・・・・・・・・

 
アベノミクス」というのは「金融政策、財政政策、成長戦略」という三本の矢による経済政策なんだそうで、これに大きな期待を寄せているのがこちらのブログです。


 
「シェイブテイル日記」
2013-01-27 アベノミクス元禄文化の関係
http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20130127


 
「長年のデフレの後のアベノミクスは、平成の現代に元禄の世の中のような百花繚乱の文化を咲かせることになるのかもしれません。」


しかし、残念ながらシェイブテイル氏の期待するようにはならないだろうな、というのが私の予想です。


なぜか。


シェイブテイル氏の、別の日のエントリーにこうあります。


・・・・・・・・・・


2012-12-14 「現預金の価値」がそれほど重いものなのか
http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20130127


(ここまで省略)


リフレ政策・金融緩和などにより、デフレ下の民間(非金融部門)にマネーが純増したとします。
デフレである以上、これが簡単に価格上昇には結びつきません。 だからデフレ、ともいえます。
増加したマネーは、失業した人の雇用増加や遊休設備の稼働により、商品・サービス製造を引き起こします。
これにより失業していた人々に雇用機会が生じ、新たな設備投資も惹起します。
こうしてデフレギャップが埋まっていきます。


効果的なリフレ政策でインフレ転換が起きる時、民間に増えたマネーにより設備投資増加や失業率低下が始まり、不況から好況に転換します。 
サラリーマンの給料は上昇に転じ、リストラもほとんどなくなるでしょう。新卒者の就職率も当然上がります。 
配偶者を持てるだけの年収が見込めるようになれば、未婚率は低下し、特殊出生率は上がり、中長期では少子化抑制もできるでしょう。
更には自殺率が下がる、国民の気持ちが前向きになるなどの大きな効果も見込めます。
また減価した不動産や株式などの資産価値も上昇します。
少し考えてもこれだけメリットがあるインフレ転換が金融緩和などのリフレ政策で可能だとすれば、マネーの価値がわずか年率2%程度下がるなどというデメリットはほとんど無視し得るものだと私は思います。


(以下省略)


・・・・・・・・・・


何から突っ込んでいいのか迷ってしまいますが、中でも一番無理筋なのはやはりここらへんでしょうか。


「効果的なリフレ政策でインフレ転換が起きる時、民間に増えたマネーにより設備投資増加や失業率低下が始まり、不況から好況に転換します。」
「サラリーマンの給料は上昇に転じ、リストラもほとんどなくなるでしょう。」


 
どうしてリフレ派の人って、「トリクルダウン理論(笑)」をここまで無邪気に信じることができるんでしょうか???


 
これに関しては、実は非国民通信氏(以下H氏)が良いエントリーを書いています。
数少ない拙ブログ常連読者の方はご存じのように、私は時々H氏の記事をブログで取り上げては批判しております。
がしかし、だからといって、H氏がいつも間違ったことを書いているっていう訳じゃありません(当たり前かw)。
今回はH氏の名誉回復の為にも、彼のブログ記事を引用することにしましょう。


・・・・・・・・・・


「非国民通信」
2010-10-02 好況でも不況でも賃金は下がる
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/f24c29801add0c57125ec07b031e98bd


(ここまで省略)


 給与水準の低下に対して、不況だから、デフレだからと言い放つ人がいます。本当にそうなのでしょうか? 確かに、「実感」としては不況なのかも知れません。給料が上がらないのですから、景気が悪く感じられるのも当然です。しかし統計が示唆するのは、そうした印象論とは全く逆のものと言えます。

 1989年の名目GDPは407兆円です。一方で2009年のGDPは474兆円です。たしかに2007年をピークに2年連続で低下しているものの(2010年度は増加に転ずる見通し)、1989年に比べれば2割ほど増加しています。要するに、不況と言いつつもこの20年で見れば経済は成長している、それにも関わらず給与水準は低く据え置かれているわけです。分配のパイは増えない(だから格差解消のためには正社員を切るしかない)、などと自信満々に言い切る連中も後を絶ちませんが、世界経済に比べて格段に緩やかな成長でしかなかった日本でさえ、戦後最長という異例の長期間にわたって分配のパイは増え続けてきたのです。しかし分配のパイは増えても決してそれを労働者側に分配しようとしなかったのが日本経済であり、それが日本市場の購買力を損ねてきました。不況だから給料が上がらないのではありません。給料が上がらないから、働く人の取り分を抑え込んできたからこそ不況なのです。

 景気回復局面にあっても不況を装って賃金を抑え、本物の不況が訪れればここぞとばかりにさらなる賃下げに走る、この結果として売上高は前年度よりも減ったけれど純利益は増加、みたいな事態すら当たり前のようになってしまいました(参考)。結局、こうした人件費削減によって利益を確保するという日本的経営から脱却しないことには、不況もまた終わるはずがないと言えます。経営側にしてみれば不況のおかげで空前の買い手市場、雇う側が働く側に対して圧倒的優位に立てるわけで、こうした現状は意外に居心地が良いものなのかも知れません。しかし、人件費を削って利益を確保するのは自分の足を食べて生きながらえるようなもの、このままではいずれ日本市場は死にます。ならば政府のやるべきことは、企業の人件費抑制を阻止することです。


(以下省略)


・・・・・・・・・・


上の記事中の(参考)にはH氏の別のエントリーがリンクされています。それはこちら↓。


・・・・・・・・・・


「非国民通信」
2010-09-08 企業がカネを滞留させている
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/02722502836cbf00abe8292de7d00ce3



大企業 内部留保11兆円増 09年度 総額244兆円に(しんぶん赤旗

 内部留保は、利益剰余金、資本剰余金、引当金などから自己株式を差し引いたもの。主要部分である利益剰余金は、前年度の133兆2000億円から135兆6000億円に増え、資本剰余金も80兆7000億円から86兆1000億円に増加しました。

 売上高は前年度の588兆1000億円から513兆7000億円に12・7%減りましたが、当期純利益は4兆円から7兆円に増加。1人当たり従業員給与・賞与は565万円から539万円に減少。製造業の設備投資(ソフトウエアを除く)は10兆9000億円から7兆円へと36%の大幅減少でした。


 大企業は円高・株安を理由に法人税減税など優遇措置の拡大を主張しますが、正社員の非正規への置き換えなどでコストを減らし、売り上げが減っても利益を蓄えていることが改めて浮き彫りになりました。大企業が生産活動への投資を控え、過剰な内部留保をため込んでいることが日本経済の停滞を招いています。


 引用元では内部留保の方に焦点が当てられていますけれど、もう一つの重要なポイントとして「売上高は前年度の588兆1000億円から513兆7000億円に12・7%減」でありながら、「当期純利益は4兆円から7兆円に増加」していることが挙げられます。売上は減ったけれど、利益は増えているわけですね。結局、これが日本的経営というものなのでしょう。売上を伸ばすことではなく、コストカットによって利益を確保する、これが日本的経営であり、日本を先進国中唯一のデフレ国家たらしめているものでもあります。


(以下省略)


・・・・・・・・・・


2010年時点での経済状況は、


「要するに、不況と言いつつもこの20年で見れば経済は成長している、それにも関わらず給与水準は低く据え置かれているわけです。」


「しかし分配のパイは増えても決してそれを労働者側に分配しようとしなかったのが日本経済であり、それが日本市場の購買力を損ねてきました。不況だから給料が上がらないのではありません。給料が上がらないから、働く人の取り分を抑え込んできたからこそ不況なのです。」


そして、


「人件費を削って利益を確保するのは自分の足を食べて生きながらえるようなもの、このままではいずれ日本市場は死にます。」


つまり、日本経済を再生させるには、再配分を強化して内需を強くすることが必要不可欠なのです。


もし、再配分を強制的に行うような政策(最低賃金引き上げ等)を実施しなければ、「輪転機をぐるぐる回し」て通貨を増やし、それによってインフレを起こそうとしたところで、それらの資金はこれまで通り企業の内部留保になるだけでしょう。
(というか、むしろ日本経済は現時点ですでに充分すぎるほど金融緩和されており(だからこそ企業は大量の内部留保を滞留させることができている)、これ以上の金融緩和は無意味だと私などは思うのですが、これに関しては当のH氏を含めそうは思わない人も多いようで…。)


・・・・・・・・・・


ところでその安倍内閣、肝心の再配分政策はというと・・・


 
生活保護 受給世帯96%で減額」 東京新聞 2013/01/28
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013012802000116.html


 
話によれば、最低賃金生活保護費を下回る場合がある現状を改めるため、最低賃金を引き上げるのではなく生活保護費を引き下げたのだとのこと。
景気対策としての再配分」など安倍総理にとっては発想の外、「企業優遇」こそが、それだけが景気対策ということです。


つまりは、低所得者層に対してはより一層の「シバキ上げ」、企業に対してはより一層の「緩和政策」、これがアベノミクスと言われる経済政策なのです。


ということで、「輪転機をぐるぐる回し」た資金は、バブル後の「好景気」の時と同じく、企業の「内部留保」として滞留する可能性が高いと思われます。


これでは、景気も良くなりませんし、インフレだって起こりません。
(そもそも通貨量の増大自体は、景気を良くも悪くもしませんが。)


しかし、ここからがさらに問題なのですが、安倍総理はインフレ率2%を目標として、「達成するまで」経済対策を続けると公言しています。
ということは、「2%のインフレ率が実現するまで」延々と「輪転機をぐるぐる回し」続ける、かもしれないのです。


・・・・・・・・・・


もちろん、違うシナリオも存在します。
内部留保」ではなく、設備投資をしたり、金融投資をしたり、・・・手持ちの資金でとにかく何かしたくなるように、政策誘導することは可能でしょう。
2%のインフレ目標も、達成できるかもしれません。


しかしその場合でも、従業員の賃金が上昇するとはとても思えません。
現に2000年代の「好景気」の時には、従業員の平均賃金が下落した「実績」がありますし、「最低賃金に合わせて生活保護削減」するような政府が「強制力を伴った賃金上昇政策」など取るはずありませんから。


円安の追い風を受けて、輸出業は少し持ち直すかもしれません。
原材料を輸入する業種は、むしろ厳しくなるかもしれません。
しかしいずれにせよ、一部の企業の景気が良くなったとしても、フツーの人にとって景気が良くなるわけじゃありません。


インフレは起きましたが、景気は(一部の)企業でしか回復しませんでした・・・


・・・というところで、“政府ブレーンが冷静ならば”インタゲ政策は終了でしょう。
政府もおそらくこの線あたりを狙っていると思いますよ、私は。


しかし、もしかしたら「国民がそれを許さない」かもしれません。


「金融緩和は景気対策の基本」と「理屈もわからず盲信」してしまうと、たとえ「再配分による内需強化」がなくとも、「金融緩和だけでも少しは景気が良くなるはずだ」などと考えてしまうかもしれません。
そうなれば


「景気が良くなるまで金融緩和を続けるべきだ」


なんていう声が出てきてもおかしくありません。


ところで金融緩和、特に量的緩和を実施するということは、貨幣の価値が現在よりも下がるということです。
富裕層の資産が目減りする、なんてのはどうでもいいんです、少なくとも私たち低所得者層にとっては。


賃金が、その額面が下落しているのに、政府に「輪転機をぐるぐる回せ」と低所得者層自らが要求し、自ら進んでその少ない賃金の価値をさらに下げようとする・・・


そんな漫画のような事態が起きてしまうかもしれないのです。


 


いずれにしても「アベノミクス」、「量的緩和」と「内需縮小」を同時に実行する政策の、このままいけばその行き着く先に待っているのは「スタグフレーション」です。


 
・・・・・・・・・・


今回は、「アベノミクス」を再配分と通貨量の側面から考えてみました。
他にもいろいろ問題(財政規律、日銀の独立性、等々)はありますが、今回考えた要素だけでも「アベノミクス」に反対するには十分です。


一見「経済政策」というと、「社会保障」とは別もので、


「『経済政策』で好景気をつくることで『社会保障』の費用をまかなうようにすればよい」


と考えてしまいがちなのですが、むしろその考え方こそが経済成長を妨げてきた、といっていいでしょう。
失われた20年とは、バブルが崩壊したために起きたのではなく、企業が再配分を放棄したために起き、そしてそれ故に現在まで続いているものなのです。
その反省を生かさない経済政策は、日本の不況を根本的には改善し得ないといっていいでしょう。
もはや高度成長期のように「他国の経済成長を大量に取り入れたり」「エネルギー投入量を右肩上がりに増やしたり」することなどできないのですから。


 


また「アベノミクス」の周辺では、なにか「紙幣を刷ればすべてが解決」するかのような物言いをする人が目立ちますが、もちろん経済にはそんな「魔法のような方法」はありません。
ただ紙幣を刷るだけでは、紙幣自体の価値が下がるだけ。
個人の収入の額面がインフレ率以上に上がらなければ、それは体のいい個人から国家への富の移動に他なりません。
増税」をしようとすると多くの国民から反対されてしまいますが、このような「実感の薄い実質的な増税」であれば、「景気対策」の名のもとに国民の支持を受けて堂々と実施されてしまう、かもしれませんね、今の勢いでは。


 


最後に。
これは何度でも書きますが、経済とは「実体」が伴わなければなりません。
今回の話で言えば「景気向上のために内需を回復させること」、この内需」こそが「実体」なのです。